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時を経て美しくなる一生モノのオールドキリム|世界の暮らしのイイトコドリ 第7回

2017.9.20

夫婦で旅する「LIFE IS A JOURNEY!」が世界で出会った素敵な暮らし方やアイテムを紹介する連載。今回は、トルコ・イスタンブールで憧れのヴィンテージテイストのキリムを探すエピソード。しかし出会うのは偽物、高級品、マダムテイストなど「これじゃない感」漂うキリムばかり。念願のキリムを手に入れるために2人がとった作戦は……。


雑誌で見つけた美しいラグ


はじめてそのラグを目にしたのは、海外のインテリア雑誌でした。ヴィンテージ風の部屋にしっくりと馴染んだそのラグは、どこかエスニックっぽい雰囲気を帯びていました。長く使われてきたような使用感があり、味わいがあります。


そのラグが「キリム」と呼ばれるものだと知ったのは、雑誌で見てから数年後、トルコを旅しているときでした。イスタンブールの街を歩いているとき、あちらこちらにある絨毯屋さんの中で見つけたのです。


ずっと探していた念願のキリムを見つけ、私たち夫婦は有頂天。「LIFE IS A JOURNEY!」の商品として仕入れようと喜び勇んで店に入ったのですが、すぐに退散する羽目になりました。


給料3カ月分どころか、目が飛び出そうな値段を告げられたのです。


使い込むほど美しくなるオールドキリム

photo:graf studio


キリムには、オールドキリムとニューキリムの2種類があり、ニューキリムよりもオールドキリムのほうが価値があるとされています。ニューキリムが工場で機械織りされているものがほとんどであるのに対し、オールドキリムは遊牧民が手作業で織ったもの。


遊牧民の技術は非常に高く、細やかで美しい柄を織り込みます。それらは現代技術を持ってしても、機械織りでは再現できないそうです。さらに、機械織りでは糸の染色にケミカルの染料が多く使われるのに対し、遊牧民たちは草木染めで行います。


実はこの染料の違いが、キリムの美しさや長く使い続けられるかどうかの重要なポイント。ケミカルの染料は陽に焼けると白く色が抜け落ちてしまうのですが、遊牧民の草木染めはグラデーションのようにだんだんと色を淡く変化させていきます。


使い込めば使い込むほど、美しく変化していくオールドキリム。歳を重ねることで美しい色の濃淡を見せるオールドキリムは、新品よりも美しく、価値があるとされているのです。


街にあふれる偽物とマダム向けキリム


ところで、トルコでのキリム探しが難しい原因とされているのが、悪徳ショップの存在。


イスタンブールの観光エリアを離れてローカルエリアに入ると、道の上に並べられたキリムの上を車が通っている光景を見かけます。実はこれ、ニューキリムにわざとダメージを与えて、オールドキリムっぽく仕上げた偽物を作っているそう。


また、オールドキリムは、使っている糸の細さや柄の緻密さ、年代などによって価格が決まるのですが、遊牧民から譲り受けたときの金額に影響されることが多いため、実際の品質と価格のバランスが取れていないことも多々あります。それを利用した詐欺が横行しているのです。


そこでまず、私たちは信頼できる店を探すことにしました。イスタンブールのありとあらゆるキリム屋を巡り、最後に行き着いたのが、大使館御用達の高級キリム屋でした。


訪れた高級キリム屋は、まるで高級ホテルのようなラグジュアリーな雰囲気でした。ほかのキリム屋と違ってきちんと定価がつけられていて、それぞれに政府が発行する鑑定書がついていました。少し相場よりも高い気はしますが、その分確かな本物が並びます。


けれど、店内をどれだけ見ても、購入する気にはなれませんでした。どれもこれも“お金持ちのマダム向け"といったテイストで、私たちが求めているようなヴィンテージ感のある、こなれたキリムは見当たらなかったのです。


薄々気がついてはいましたが、トルコのキリム屋は世界のお金持ちをターゲットにしたきらびやかなテイストが売りのようです。店員さんに求めているキリムの話をすると、「君たちは変わったものが好きなんだね」と言われる始末。


がっくり肩を落として店を出ようとしたとき、後ろから店員さんに呼び止められました。


「そうだ、ちょっと待って! うちのオーナーは君たちと同じくらい変わり者だから、彼に会ってみるといいかもしれない」


こんな高級キリム屋のオーナーと趣味が合うとは思えませんでしたが、ダメもとで、2階にある彼のコレクションルームを訪れてみました。


するとそこには、想像しなかった世界が広がっていたのです。


鮮やかで美しいキリムとの出会い


お香の香りが立ち込めた薄暗い部屋には、テクノの重低音が響き渡っていました。天井からはさまざまなオーナメントがぶら下がり、壁にはありとあらゆるオブジェが積まれています。


オレンジ、赤、水色、緑。——部屋の中にあふれる色、色、色。色の洪水のような部屋には所狭しと、鮮やかなキリムや絨毯が敷き詰められています。それはまさに、私たちが求めていたヴィンテージテイストのキリムでした。




雑然とキリムを置いているように見せかけて、すべて計算されているのではないかと勘ぐってしまうくらい、どこを切り取っても素敵な空間なのです。


1階のマダムテイストの店舗とのギャップに呆気にとられていると、ねじり鉢巻のおじちゃん、いえ、オーナーが奥から出てきました。



「驚いたでしょ? ここは僕の好きなものだけを集めたコレクションルームなんだ。よく撮影にも使われてるんだよ。店のみんなは理解してくれないけどね」と見せてくれたのは、ヨーロッパの高級ブランドのルックブック。モードな服を着た美しいモデルがキリムの中でポーズを決めています。


この部屋にあるキリムはどれもオーナーの私物ですが、気に入ったキリムがあれば売ってもいいとのこと。宝の山のような部屋から、私たちは数枚のキリムと絨毯を引っ張り出しました。


「それは大切なものだからダメ!」と言われることも多かったのですが、いくつか譲り受けることができました。


「君たち、いいタイミングで来たね。実はこの部屋、なくなるかもしれないんだ。こんな収益の上がらない変わった部屋を維持するのがもったいないって、従業員たちにずっと小言を言われてるんだよ」


そういってニカっと笑う彼。オーナーなのにTシャツとねじり鉢巻、けれど、人を惹きつける不思議な魅力にあふれた人でした。



このときに譲ってもらったキリムは、いま我が家で大活躍しています。ラグにしたり、ソファにかけたり、キャンプに持って行くこともあります。


これから長い歳月をかけて、私たち家族と一緒に歳を重ねていくキリム。私がおばあちゃんになる頃には、このキリムもきっと、美しいグラデーションを見せてくれることでしょう。




「世界の暮らしのイイトコドリ」 バックナンバー

第1回 旅に出る理由

第2回 盗難から始まった、アルゼンチンの財布ブランド「planar」との関係

第3回 ネパールのお母さんたちが作る、ふぞろいなコースター

第4回 南米の「飲むサラダ」を求めて-マテ茶をめぐる冒険・前編

第5回 それでもマテ茶の神は見捨てなかった-マテ茶をめぐる冒険・後編

第6回 チベットの荒野と、透き通るヤクのツノのくし



著者プロフィール|川内まり

「LIFE IS A JOURNEY!」という名前で夫と世界を旅しています。訪れた国、都市、街、村にはその土地それぞれに、歴史があり、文化があり、暮らしがあります。私たちがやりたいことは、訪れた場所の暮らしをいいとこどりすること。私たちの理想の暮らし、心地よいものに囲まれ、無理のないのびのびとした生活を営むこと。山があり、森があり、田畑がある。季節を感じ、土を感じ、風を感じる。そんな暮らしを思い描き、家に置きたいものや、素敵な暮らし方のヒントを世界中から集めています。

https://life-is-a-journey.jp

Instagram www.instagram.com/lifeisjourney_days/

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