FOR USER
App Storeからダウンロード
FOR SHOP
出店する
出店する

THE WORLD ELEMENTS

Follow Us

Other

サインアップ

​ブランディングの威力を知る、世界最古の透明石けん「Pears Soap(ペアーズソープ)」 [イギリスの定番品]

2016.8.19



イギリスの定番品について書いてほしいと言われて、頭の中にズラズラと浮かんだのは恥ずかしいかな食料品ばかり。そんな中、日用品で真っ先に思いついたのが「Pears Soap(ペアーズソープ)」、年配層を中心に根強い支持を得ているイギリスの定番石けんだ。

日本で言うと牛乳石鹸みたいなものだろうか。お値段が手頃で良質な老舗ブランドというイメージ。しかし牛乳石鹸が90歳足らずであるのに比べ、Pearsは驚くなかれ、230年の歴史を誇る世界で最初に商標登録された透明石けん、つまり透明石けんのマスプロダクト第一号なのである。

作ったのはイングランド西部コーンウォール生まれのAndrew Pears。18世紀末、床屋修業でロンドンに出てきて、当時、貴族階級の人々がタウンハウスとして住むことが多かった現在の中華街付近に開業してみたところ、上流の皆さまがお顔の美白に執心していらっしゃることを発見。それならばデリケートな美白肌のためのやさしい洗顔剤が必要であろうと、試行錯誤を重ねて生まれたのが、グリセリンとシダ―ウッドやタイムの油で作った自然派石けんだった。不純物を取り除くことに重点を置いて2ヵ月ほど熟成させてみたら、なんと半透明の琥珀色をしたきれいな石けんができちゃった。1789年のことである。



このブランドは、現在も脈々と続いている。調べてみると、現存する商品ブランドとしても、世界最古らしい。そのような歴史ある石けんであるにもかかわらず、ワタクシ、この原稿を書くまで一度も使ったことがなかったのであるが(汗)、もちろんその存在は知っていた。

スーパーの棚でよく見かけるから? まぁ、イギリス国内ならばスーパーから薬局までたいていの小売店で扱っているであろう。しかし、スーパーの石けん売り場をほとんどのぞかない身としては、実はそのような場所での遭遇はありえない。私がこのPears Soapの名を目にしていたのは、町の商店街に連なる古いビルディングの外壁。そこにはときに「金鳥 かとりせんこう」ならぬ、「Pears Soap」と書かれたレトロなポスター版が、昔日の面影とともに残されている。

この石けんを何世代にも渡って人々がせっせと購入しているのにはワケがある、と見る向きもある。

Pears Soapの販売元だったA & F Pears社は、19世紀半ばのビジネスとしては稀に見るブランディング戦略に力を注いだ会社だった。華々しい広告展開で「富裕層が使う肌にやさしいナチュラル石けん」のイメージを人々の脳みそに刷り込むことに成功。商品を巡るストーリーを生み出し、消費者の感情に結びつけるという王道マーケティングに天才的な才能を発揮したのは、Pears一族の娘婿として会社入りした Thomas J Barrattだ。

バラットは「オフィーリア」で知られるラファエル前派の画家ミレーの絵画「Bubbles」の著作権を買って広告イメージとして採用して物議をかもしたこともある人物。後に現代的マーケティング手法の先駆者として認識されるようになり、「近代広告の父」とも呼ばれている。19世紀から20世紀半ばにかけて発信されたPearsのレトロな広告をご覧になりたい方は、Pears Soap adsで画像検索するといっぱい出てくるのでおヒマつぶしにどうぞ。



さて、上流階級の柔肌のために開発されたPears Soapも、今は1コ50ペンス(約70円)程度で買える庶民のブランド(長い歴史ゆえロイヤル・ワラントも保持しているが)。20世紀半ば過ぎまで信頼性の高い上質石けんの代表選手として認識されていたみたいで、今も年配の皆さん、その世代に育てられた中年世代にファンは多い。もっとも商品はマーケティング力だけでは生き残れない。クオリティは必須だが、Pearsは何度か品質チェンジの試練をくぐりぬけている。現在、消費者の議論の的となっているのは、その香りである。

230年続く老舗ブランドとは言いつつ現在はユニリーバ・グループの傘下にあり、 2009年に大きなチェンジを経験した。その際、オリジナルの「洗い立ての洗濯ものみたいなふんわり幸せな香り」から、「どぎつい工業的な匂い」に変わってしまったというのだ。私はオリジナルの香りを知らないので何とも言えないのだが、ライターでミュージシャンのBob Stanleyがガーディアン紙に寄稿したこの記事は凄まじい。

「幸せな記憶と結びついている」人生の愛用品Pears Soapの「ふんわり洗いたてシーツの 香り」が変わってしまったことに気づいた彼は、素早く行動を開始した。行く先々で「オリジナル」のPears石けんの在庫を置いている小売店のドアを叩き、残り一生分のオリジナル・ソープを買い占めたというのだ。その数、約200個(驚)。新しい香りは他の消費者にも不評だったと見えてFacebookでオリジナル・ペアーズを取り戻せキャンペーンが展開されるや、ユニリーバも迎合する態度を見せつつちょっと元に戻してみたりしたみたいだが、マスプロダクトの哀しい性、完全に後戻りはできないんですな。

え? 実際はどんな香りなのかって? う〜ん、洗い立ての洗濯物みたいな香りではない、とだけ記しておこう。

Pears Soapオフィシャル・サイト


著者プロフィール
江國まゆ(えくに・まゆ)
ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。出版社勤務を経て、1998年渡英。英系広告代理店にて翻訳ローカライズや日本語コピーライティングを担当し、2009年からフリーランス。趣味の食べ歩きブログが人気となり『歩いてまわる小さなロンドン』(大和書房)を出版。2014年にロンドン発の情報コミュニティeマガジン「あぶそる〜とロンドン」を創刊、編集長として「美食都市ロンドン」の普及にいそしむ。

ホームページ:http://www.ekumayu.com
あぶそる〜とロンドン:http://www.absolute-london.co.uk

コメント 0
THE WORLD ELEMENTS この機能を利用するためには、App Storeでアプリをダウンロードする必要があります。 App Storeからダウンロード
閉じる
OTHER STORY
Loading...
ITEM RANKING
Loading...
SHOWCASE RANKING
Loading...