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語りたがる男[表参道HOEK]|ある買い物客の事情 第1回

2017.8.4

今日もどこかのショップで、今この瞬間に生まれている、出会いと葛藤と妄想。これは、ある日突然、探し求めていたモノに遭遇してしまった人々の物語。



Episode01 語りたがる男


表参道の大通りから、シャネルとディオールの間の道を入る。

わざわざ「こっちシャネル、そっちディオール」と左右を目視確認したのは、「今、俺、東京にいる!」とちゃんと感じたかったから。

そんな男は、もちろん地方出身。

ディオールやシャネルどころか、スタバもドトールもねえよ! と逆ギレするくらいの田舎。

だから、そんな些細なことでもいちいち感じていないと、高い家賃を払っているもとがとれない。


その道は、ここ数年ほどでお店がにわかに増えたが、以前は閑静という言葉がぴったりの住宅街だった。

その一角にある、瀟洒なマンション。

古いけれど、古くなってより価値が増しました、エレベーターありませんけど何か? 的な建物の、4階まで階段で上る。



やや息を切らしながらその店「HOEK」の扉を開けると、開けるやいなや、ある特別なエアーがドバドバと押し寄せてくる。

温和で端正。清らかで穏やか。美しく親密。

きれいにリノベしつつ、もとの建物の感じが少しだけ残っている空間や、きちんと並べられた商品のひとつひとつから漂うエアー。

またそれは、ちょうど入り口の死角から、ニカッと笑う店主がヒョイと顔を出す瞬間、MAXになる。

端正すぎる顔の眉毛がキュッと虹のように弧を描くさまに、男は心がトロトロになり、血液はサラサラになる(気がする)。


「ども。こんちは」

このさわやかな声で、さらに男は「ゴロンとお腹を出す犬」状態になる。

どうにでもして! と欲しがる合図だ。



すると店主は、一番気持ちのいい、うぶ毛のところを撫でるかのごとく、男が思わず語りたくなるようなネタを、じゃんじゃん振ってくる。

男がかけているメガネのこと、はめている時計のこと、すごくがんばって探して、探して、やっと見つけたそれらを「いいですね〜」と、褒めて欲しかったセリフをまんま、しかもセンスのかたまりのような人が言ってくれたときの、あの溜飲が下がるようなエクスタシー! オウ、ゴージャス!


はっ! いかん! このままじゃあただの語りたがりのやつじゃないかと気を取り直した男は、お店にあるものについて質問する。

すると店主は、ひとつひとつに対し、とてもとても丁寧に、ものにまつわるストーリーを教えてくれる。

素材や使い道のこと、作り手の思い、自分が使ってみたときの感想……。

ゆっくり、たっぷり、でも「うんちく」に決してならない、細心の配慮に満ちた話しぶりに、男はさらに感心が止まらない。


話は棚に高く積まれた、ある青い箱のことになった。

「この箱は、"時間"がテーマなんですよ。光が当たるところだけ色が変わる。今は青いですけど、どんどんベージュっぽくなっていくんです」

そこですかさず、いつのまにか持っていたiPadを差し出し、ベージュになった状態を見せてくれる。



「ほら、こんな感じで。色の変化によって、時間の経過を感じられるんです」

ふむ、なるほど。と完全にやられちゃってる男に、店主は続ける。

「これを、遠くに引っ越す友人にプレゼントするというお客さんがいて。その人、ふと思いついて、自分用にも買ったんですよ。理由を聞くと、あげた友人といつか何年後かに会ったとき、『時が経ったね』と言いながらこの箱を見せあって、それぞれの変化を共有したいからって。それを聞いて、いいなぁと思って」

と、さもうれしそうに話す店主のセリフを聞きながら、男は実家にある、黄色い箱のことを思い出していた。


そこには学生時代の写真や日記、映画の半券やチラシといった、当時好きで集めていた紙モノなどが、ぎゅうぎゅうに詰まっている。

何もない、ディオールやシャネルどころか、スタバもドトールもない町だったけれど、あるもので、どっこい楽しく暮らしていた痕跡が残っている。

そうだ。この箱に、自分が今好きなものや言葉を入れておこう。

年ごとに1箱、というのもいいかもしれない。男は思い馳せた。


ものの持つストーリーが、使い手による新たなストーリーを生む。

その幸福すぎる循環が、この店から、この店だからこそ生まれている。

男は不意に、胸からきゅんとしたものが込み上げてきて、もうすぐ鼻に抜けて涙が出そうになるのを、紛らわすように言った。

「こ、これ、ください」



今回の舞台 | HOEK(フーク)

表参道にあるセレクトショップ。扱うプロダクトは、インテリア雑貨や食器、洋服、キッズ用品などジャンルレス。店主の大井智史さんが心からおすすめできるものだけを紹介している。

東京都渋谷区神宮前5-12-10 鈴木マンション406
12:00-19:00、水休
http://www.hoek.jp/


今回のアイテム|PULL+PUSH PRODUCTS diazo box

青焼きとも呼ばれるジアゾ式複写によって、青色に感光させた紙を用いた箱。サイズは4種類、濃紺・淡青の2色がある。




「ある買い物客の事情」バックナンバー

第2回 臆病すぎる女[金沢 COPYLEFT]

著者プロフィール|山村光春

編集者。BOOKLUCK主宰。東京と長野に拠点を持ち、カフェや雑貨、インテリア、食など、暮らしまわりのジャンルにおける執筆、編集を手がける。著書に『眺めのいいカフェ』(アスペクト)など。

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