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臆病すぎる女[金沢 COPYLEFT]|ある買い物客の事情 第2回

2017.6.3

今日もどこかのショップで、今この瞬間に生まれている、出会いと葛藤と妄想。これは、ある日突然、探し求めていたモノに遭遇してしまった人々の物語。



Episode02 臆病すぎる女


ともすれば何万回と繰り返しているはずなのに、その女は初めてのお店に入るとき、たまらなく緊張してしまう。

買い物に慣れている女を装い、真顔で口を軽くとんがらせながら「なんとなく、ふらりと入ってみたの」という風を吹かせている(つもりで)も、頬はピクピクと強張っているのが自分でも分かる。

店に入ると女はまず、警戒しながら空間全体をふわっと見渡したあと、誰とも目を合わさず、隅っこから牛歩で回る。歩みを止めたり、何かひとつを手に取ったりするのはまだ早い。「様子見モード」から「買いたいモード」にならない限り、思わせぶりな態度は、お店の人に申し訳ない。っていうか、単に話しかけられるのが怖いだけかもしれないけれど。


もちろん接客されたからといって、強制的に買うまで帰らせない、なんてことはないのは分かっている。かといって、緊張がおさまるわけではない。

そんな女の思惑を知ってか知らずか、たいてい店員さんも、最初は知らんぷりしてくれる。パソコンに向かい「ちょっと今、作業してるんで」という風を吹かせつつ、その実こちらの一挙一動を、こっそりガン見している(気がする)。


COPYLEFTは、金沢に旅をしたとき、通りがかりに偶然見つけた。全面ガラス張りなので店内の様子はよく見えるものの、何屋さんなのかは判然としない。女は、いつもより注意深く扉を開けた。


海外の会社の倉庫のような、クリーンで無機質、でも洒落た空間。そこまで広くはないけれど、あらゆるジャンルのものが鎮座している。

とはいえ、今どきのライフスタイルショップのような"生活シーン提案"をしている感じでもない。それぞれが個別に、何やら言いたげなムードを纏っている。


女は手前から奥へ、視線をゆっくり滑らせる。本があったり、文具があったり、洋服があったり、フレグランスキャンドルがあったり。そのセレクトの意外性に、女の心はみるみる傾く。何というわけではないけれど「買いたいモード」になってきている。でも、まだ早い。女はとんがらせた口を緩めない。


奥のレジカウンターでは、30代くらいのオーナーらしき男性が、例のごとく何やら作業をしていた。ただ彼の場合「実はこっちを見ている」感もなく、本当に何かに没頭しているようだ。

女は油断してレジ横の平台で足を止め、そこにあるものに見入った。興味を惹いたというよりも、それが何か分からなかったのだ。



真鍮でできた小さな棒に、いろんな色や形の石がついている。

「それ、キーホルダーなんですよ」と、気さくな調子でオーナーらしき彼はつぶやく。キーホルダー?これが?と思っていると「まだ、こないだ入ってきたばかりで」と続く。

うわ、出た!「入ってきたばかり」と「これで最後」という言葉にめっぽう弱い女は黙って頷き、心の手綱を無理やり締め直す。彼は追い討ちをかける。

「天然の鉱石なんで、全部ひとつひとつ違うんですよ」

んー「世界にひとつ」にも弱いんだった。どうしてこんなに弱いとこばかりつくんだろう。


彼はなおも続ける。

「キーホルダーって、探そうと思ってもなかなかいいのって見つからないですよね」

そうそう!心の中だけのつもりが、思わず声に出てしまった。一度口を開くと、とたん饒舌になるのも女のクセだった。

「そうそう!だから、私も今は神社で買ったお守りをキーホルダーにしているんです」

すると彼は、我が意得たりとばかりに返す。「そういう意味では、石もお守り的な役目ってありますよね」

確かに。ずっと持っているものだからこそ、何か宿るものがいい。そう思ってお守りにしたような覚えがある。


どうしよう。欲しくなってきた。女はおそるおそる値段を聞いた。

「えっと、こっちが 15,120円で、こっちが14,040円ですね」

「高っ!」思わず口走ってしまった。「キーホルダー越えした、い、いいお値段ですね」と言い直すと、「確かにそうかもしれないですね」と、これには彼も同意した。

だめだ。いったん冷静になろうと、しばらくアッチを見たりするのだが、やはりソッチが気になって仕方がない。




キョドる女をたしなめるように、彼は「ちなみに、どの石が好きですか?」と聞いてくる。

それはすでに決まっていた。「Sodalite」と書かれた、深い深い青。

そっと指差すと彼は「あ、それならもうひとつありますから、見比べてみて下さい」と言い、裏から出してきてくれる。

こっちのほうがいい。色も形も断然好みだ。見とれていると、実際に鍵を装着してみることを提案され、女はその通りにする。さらに彼に断りを入れてから、"いったんポケットに入れ、出して鍵をかける"という、いつもの動作をシュミレーションしてみる。

すると、どうだろう。さっと石のところに指がひっかかり、すごく取り出しやすいのだ。

これはいい。でもキーホルダーなんて買うつもりじゃなかった。でも欲しい。でも高い。でも愛着が湧きそうだ。でもいいのか……アタマの中がトルネードのようにぐるぐると駆け巡る。明らかに混乱している。店員はニコニコして待っている。早く決めなければ。うぅー!


「買います!!」


自分の思った以上に、ものすごく大きな声が出てしまった。何かを買うのに、そんな高らかに宣言する客はきっとそういないだろう。顔を赤くする女に彼は「ありがとうございます。いやぁ、うれしいです」と笑みをもらしながら、包む準備をする。女は、何かをやり遂げたように笑みを返した。


これがもしも洋服であれば、そのくらいの値段は難なく出せただろう。しかしキーホルダーだというだけで、こんなにも勇気がいるなんて。

でも、それだけに。毎日手に取るたび、きっとこの日のことを思い出すだろう。女はそう確信し、もう一度、自分のために小さく笑った。





今回の舞台 | COPYLEFT(コピーレフト)

インテリア、ファッション、本など、生活にまつわるさまざまなアイテムを、国や地域を問わずフラットな視点で扱うセレクトショップ。

石川県金沢市新竪町3-135-2

12:00〜20:00、木休

http://copyleft-shop.com/


今回のアイテム|POSTALCO Mineral Key Holder

地殻から採掘された天然鉱石のキーホルダー。真鍮のネジをクルクルと回してカギを付け足す。



「ある買い物客の事情」バックナンバー

第1回 語りたがる男[表参道 HOEK]



著者プロフィール|山村光春

編集者。BOOKLUCK主宰。東京と長野に拠点を持ち、カフェや雑貨、インテリア、食など、暮らしまわりのジャンルにおける執筆、編集を手がける。著書に『眺めのいいカフェ』(アスペクト)など。

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