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妄想を買う男[福岡 marcello]|ある買い物客の事情 第3回

2017.6.3

今日もどこかのショップで、今この瞬間に生まれている、出会いと葛藤と妄想。これは、ある日突然、探し求めていたモノに遭遇してしまった人々の物語。



Episode03 妄想を買う男


検索して出てくるモノは、ネットで買うことが多くなった。確かにわざわざ探さなくてもいいので便利。もあるけれど、思えばアレだ、買えば買うほどたまるポイントのせいだ、と男は気づく。そういえば、期間限定ポイントのためにむりくり買いものすることもある。こっちはポイントを利用してウッシッシのつもりだけど、実はポイントに利用されて、向こうがウッシッシなのかもしれない。チクショー。


そんな、どうでもいいことをつらつら頭にめぐらせながら「marcello」までの細い道を歩く。後ろから、ちょいちょい車が通り過ぎる。車道も歩道もないまぜの道は、いつも何気に気が抜けない。


いつしか、男は定期的にその店に行くようにしている。まるで義務のように。理由はなんだろう。少なくとも目的を持った買いものではないことは確かだ。じゃあなぜか。うーん、よくわからない。




着いた。いつもながらに素っ気なく、分かりにくい外観だった。鉄工所の倉庫のような。一見さんは、まさかここを店だとは思うまい。男は1階の扉をいったんスルーし、隣にある小さな扉を開け、超うす暗く急な階段を昇る。ここのわかりにくさも、さらに輪がかかっている。一見さんなら、鉄工所の事務所に集荷に行く宅配便のセールスドライバーか君は、と思うかもしれない。


道にトラックが停まったらしく、ピーピーというバック音が聞こえる。ただそれもひとつの踊り場を超えたあたりで、徐々に聞こえなくなる。代わりに耳を占めるのは、しんとした、うす暗い階段に似合う、溶けるようなメロディ。いざないの音楽だ。何のいざないか、それは天国にほかならない。毎回、毎度、そう思う。俺はこれから、天国に行くのだと。


ここから店に着くまでは、いくつかの「手続き」を踏むのだが、男はそれをあえて誰にも教えない。三途の河の渡り方を教える人がいないように。ただひとつ、それはそれは、心洗われる体験なのだった。



店に着き、全体を見下ろす(という表現が正しい)と、くりくりパーマの天使……ならぬ店主の男性と目が合う。舌ったらずのチャーミングな声で「こんにちは!」と迎えてくれる。


店で売っているのは、おもにフランスからやってくる古いもの。雑貨、古道具、家具、洋服、アクセサリーなど。でも、それじゃ表現がなんだかしっくりこない。それらは確かに「商品」ではあるのだけれど、そういう気配がちっともしない。じゃあ、なんと表現すればいいのだろう。男はしばらく考え込む。


天国の住人? あれ、わかりにくいか。インスタレーションアート? いや、そこまで難しい感じじゃない。物語の構成要員? あ、なんだか近い気がする。




そう、空間のほうぼうに佇むひとつひとつが、どこか遠くの国で紡がれる、荘厳かつ幻想的な物語をしたためている。それらをじっくり凝視しながら、男はいつものように夢想する。


――その世界は、ときどきスケールという感覚を楽しく狂わせる。すべてちぐはぐのようで、当たり前に等しく存在している。そして、みんなが旅に出たがっている。どこかに行きたそうにしている。


これらをつなぐ手がかりは、光と影だ。自然光、照明、ろうそくの明かりたちのいたずらによって、思いがけない大きさやカタチに映し出し、旅へと誘う――




男は五木ひろしよろしくわざと目を薄めて靄をかからせ、このリリカルでトリッキーな妄想の旅を、キャンディを舌で転がすように存分に味わう。


その一連の(ある意味挙動不審な)様子を、くりくりお目々の天使……いや、店主がさもうれしそうに見ている。そう、これらの物語はすべて、彼が生み出しているのだ。店の営業が終わってからたびたび、時に深夜までかけて。そのたび、空間自体がごろっと変わっているから、また通いたくなる、というわけだ。



ひととおり堪能すると、男はさっさと現実に戻り、財布を出す。さっきの言い方とは逆説的になるけれど、楽しいのは、これら物語の構成要員が、レッキとした「商品」であるということだ。


買うものは、もう決めていた。羽の生えた象のかたちをしたキャンドル。キャンドル作家さんに依頼して作ってもらったものらしく、もともと二次元の絵だったものを、三次元にしたのだという。ぽこぽことしたいびつなフォルムで、みんな違って、みんないい。火を灯すことで、さらにかたちが少しずつ変化し、個性を帯びていく過程もまた楽しめるそうだ。というか、もはやものというよりも、そんな妄想を買う行為に近い。


すっかり満たされた男は階段を降り、1階にある、もうひとつの世界の扉を開ける。すると、そこにはまた別の物語が広がっている。今度は「家具」という構成要因を使って。



今回の舞台 | marcello(マルチェロ)

「空想と現実の間にあるもの」をコンセプトに、ヨーロッパから直接買い付けてきた古いものを中心にビンテージウェアから国内ブランドまで、オーナーの藤井健一郎さんたちが自分で袖を通したいと思える服を扱っている。3階は洋服や雑貨を扱うmarcello、1階はアンティーク家具を扱うKrank。


福岡県福岡市中央区警固3-1-27 3F

13:00-20:00、水・木休

http://www.krank-marcello.com



今回のアイテム|elephant

Candle.vidaのマエダサチコさんが作るmarcelloオリジナルキャンドル。店内で流しているオリジナルアニメーション内の翼の生えた象をモチーフにしている。1,470円。


撮影:大塚紘雅


「ある買い物客の事情」バックナンバー

第1回 語りたがる男[表参道 HOEK]

第2回 臆病すぎる女[金沢 COPYLEFT]


著者プロフィール|山村光春

編集者。BOOKLUCK主宰。東京と長野に拠点を持ち、カフェや雑貨、インテリア、食など、暮らしまわりのジャンルにおける執筆、編集を手がける。著書に『眺めのいいカフェ』(アスペクト)など。

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